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   『ドリトル先生と秘密の湖』 ドリトル先生物語全集10

小B6判 『ドリトル先生と秘密の湖』 この画像はリンクしていません

菊判(21.8×15.2cm)・小B6判(17.2×12cm)
(イギリス)
ヒュー・ロフティング 作・さし絵
井伏 鱒二(ますじ) 訳
岩波書店
菊判 ¥1,890(¥1,800+税5%)
小B6判 岩波少年文庫 上下巻とも
¥714(¥700+税5%)    


「ドリトル先生物語全集」の第十作

「ドリトル先生物語」の10冊目。物語の内容から考えた年代順では12番目です。1948年(昭和23年)発表。


『ドリトル先生と秘密の湖』のあらすじ(冒頭部分のみ)

ある朝、ドリトル先生の秘書兼助手であるトミー少年が書き物をしているところへ、ネコ肉屋(ペットフード配布業者)のマシュー・マグが訪ねてきました。

トミーが自分の仕事部屋をもらっていることにマシューは驚き、そして、ドリトル先生が月から持ち帰ったメロンの種の研究について、尋ねます。

実は、地球の気候のせいで、その研究はうまく行っていませんでした。

月から帰ってからずっと、ドリトル先生は、人間の寿命を延ばすために、その研究にかかりきりで、トミー少年は、以前よりもたくさんの家の内外の仕事を引き受けて、忙しく暮らしていました。

トミーの動物語が上達したので、ドリトル家に暮らす動物たちは、忙しい先生をわずらわせる前に、まずトミーに相談するようになり、彼は余計忙しくなっていました。

マシューは、ドリトル先生がお留守と聞いてすぐ帰りましたが、今度は、ロンドンからスズメのチープサイドがやってきました。

チープサイドもドリトル先生の研究について尋ね、以前、先生がアフリカで郵便局をやっていた時に出会ったカメのドロンコの話が研究の役に立つのではないかと言い出しました。

それでトミーはドリトル先生を探しましたが、もうお昼近くになっているのに、誰にもどこにいるのかわかりませんでした。

トミーは、散歩か、買い物にでかけたのかとも思いましたが、オウムのポリネシアの話では、鳥たちを動員して先生の行方を捜しても、まったくわからないということです。

こんなことは今までに一度もなかったので、もう何年もドリトル家の家政婦を務めているアヒルのダブダブは、心配のあまり、わあわあ泣き出してしまいました。

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長い空白の後の、最後の長編作品

この巻は、前作の『ドリトル先生月から帰る』が1933年(昭和8年)に発表されてから15年も経った、1948年(昭和23年)に刊行されました。

この長い空白の間、ドリトル先生が月から帰ってからその後どうしているのか、そして家族の動物たちはどうしているのか、当時の読者は、さぞ気になっていたことでしょう。

しかも、作者のロフティングは刊行の前年1947年(昭和22年)の9月に死去しています。作品として完成はさせたものの、出版された本を見ることはできませんでした。

この長い空白期間に加えて、作者が出版前に亡くなったということもあり、この巻は、他の巻とはまた違う感慨を持って当時の「ドリトル先生のファン」に迎えられたのではないかと、館長は想像しています。

なお、この巻の後に長編『ドリトル先生と緑のカナリア』と、短編集『ドリトル先生の楽しい家』の2冊が出版されています。「ドリトル先生物語全集と作者について」のページに書いたように、この『ドリトル先生と緑のカナリア』は、作者の死後に義妹が筆を入れて完成、出版したものです。

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前半は秘密の湖への冒険

物語はおなじみの猫肉屋マシュー・マグの訪問から始まり、一見、ドリトル家の変わらない暮らしが描かれているように思われます。

しかし、ドリトル先生の失踪劇と、その後の緊迫した場面などは、今までになかったもので、1冊目から通して読んできた読者には、微妙な雰囲気の変化が感じられます。

そうは言っても、自分の失意など動物の命に比べれば大したものではないドリトル先生は、旧知の超長寿ガメ、ドロンコの危機を救うために、アフリカへ赴くことになります。

前半は、アフリカでの冒険が中心になり、秘密の湖への道のりは、どきどき、わくわくのいつもの楽しい冒険行となります。

ワニのジムやファンティポのココ王が再登場

そして、その冒険の道連れには、1冊目の『ドリトル先生アフリカゆき』で登場して、ドリトル先生の妹のサラを結果的にドリトル家から追い出すことになったワニのジムが再登場します。

また、『ドリトル先生の郵便局』で登場したファンティポのココ王も顔を見せ、懐かしい気持ちになります。

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後半はロフティング流の旧約聖書の世界

後半はカメのドロンコの物語る、旧約聖書の大洪水のお話です。壮大なロフティング流の「旧約聖書」は、夢中になって読み続けたくなる、作者のストーリーテラーとしての本領を遺憾なく発揮した物語です。

何日間も降り続く雨、大洪水、ノアの箱舟、そしてドロンコの人間への友情に基づいた行動、洪水後の世界の描写など、多くの方が興味を持って読み進まれることと思います。

劇中劇ではありますが、ドロンコの物語は、長く、かつ壮大で、ひとつの独立した物語として楽しめます。

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ドリトル先生の物語にも第二次世界大戦の影響が

ただ、ドロンコの語る、当時の独裁君主の記述から館長は、「モデルはヒットラーではないか?」と感じるものがありました。

また、アジアから来た人たちとの戦い、という一文もあり、これは第二次世界大戦当時の日本人のことを指しているのではないかとも感じました。

後年、南條竹則さんの『ドリトル先生の英国』(文春新書)を読み、南條さんもそう感じられていたと知り、やはりロフティングは、そういう暗喩をこめて書いたのかも知れないと思っています。

この巻の執筆時期は、第二次世界大戦と重なっていますから、太古の世界を物語りつつ、当時の世界情勢が反映されてしまったのでしょう。

昔の物語という設定の中で、「現在」の独裁君主を否定するというやり方は、『ドリトル先生の英国』で南條さんが述べられている通り、『物語という表現のひとつの利用方法』ですから、必ずしも否定されるものではありませんが、物語から浮いているような印象を確かに受けます。

意図するところはわかるが、物語としてみると、未消化のまま、文章が取り込まれた、というような感じです。この点だけは、疑問に思うことがない訳ではありません。

但し、物語そのものはとてもおもしろいので、背景まで考えることがむずかしい年少の読者は、純粋に「物語」として楽しめば良いと思います。

大人の読者であれば、「この物語の執筆時は、第二次世界大戦の時期と重なる」と、頭の片隅にとどめておかれれば、納得される文章が出てくることでしょう。

この巻は、いろいろな感慨を込めて読める、作者が完成させた最後の長編作品です。

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『ドリトル先生不思議な旅』は、『ドリトル先生アフリカゆき』『ドリトル先生航海記』『ドリトル先生のサーカス』『ドリトル先生月へゆく』などのストーリーを交えたもので、1967年(昭和42年)の映画です。

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『ドリトル先生と秘密の湖』関連のホームページ

「ドリトル先生物語全集」の出版社
      岩波書店児童書編集部

「ドリトル先生物語全集」の番外編 『ガブガブの本』の出版社
      国書刊行会

「ドリトル先生物語全集」関連の書籍 『ドリトル先生の英国』の出版社
      文芸春秋

この物語の舞台であるイギリスの政府公認日本語公式サイト
      UK NOWサイト
   (イギリスに関するさまざまな情報を網羅)


このページの情報は、岩波書店の目録、あとがきの「訳者のことば」、文春新書の『ドリトル先生の英国』(南條竹則 著)などによります。


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