新書判
(アメリカ)
ローラ・インガルス・ワイルダー 作
ガース・ウィリアムズ 絵
谷口 由美子 訳
岩波書店 岩波少年文庫
¥672(¥640+税5%)
「ローラ物語」シリーズの第四作兼「大草原の小さな家」シリーズの第九作(最終巻)
岩波少年文庫の「ローラ物語」シリーズの4冊目。これまで紹介してきた「大草原の小さな家」シリーズの9冊目で、最終巻に当たります。
岩波書店では、「大草原の小さな家」シリーズ後半の4冊の『長い冬』、『大草原の小さな町』、『この楽しき日々』(このサイトでは、青い鳥文庫の『この輝かしい日々』のタイトルで紹介)、『はじめの四年間』に、ローラの日記と娘のローズの文章で構成されている『わが家への道 ローラの旅日記』を加えて「ローラ物語」シリーズ全5冊として、出版しています。
1971年(昭和46年)発表。作者のローラは1968年(昭和43年)に90才で死去しました。この作品の原稿は、ローラの死後に発見されました。
原作の発表順は、以下の通りです。
(以下のリンクは、このサイト内の各巻の説明ページに飛びます。)
| 書名 | 初版発行年 |
| 大きな森の小さな家 | 1932年 |
| 農場の少年 | 1933年 |
| 大草原の小さな家 | 1935年 |
| プラム川(クリーク)の土手で | 1937年 |
| シルバー湖のほとりで | 1939年 |
| 長い冬 | 1940年 |
| 大草原の小さな町 | 1941年 |
| この輝かしい日々 | 1943年 |
| はじめの四年間 | 1971年 |
『はじめの四年間』のあらすじ(冒頭部分のみ)
星がまたたく大草原の夜に、一台の軽装馬車がシルバー・レイクのほとりの道を走っていました。道端に咲いている野ばらが甘く香る、六月の夜でした。
1885年の八月の暑い午後、窓の外を見たローラは、走って来る馬車に気が付きました。
ローラは、黒いカシミヤのドレスを縫っていたところでした。
あわてて帽子をかぶって手袋を手に取り、戸口に立ったローラは、ピンクのローンのドレスを着ていました。
そのドレスのスカートはたっぷりとしていて、灰緑色(かいりょくしょく)の幅広のボンネットの下には、ローラのピンク色の頬と栗色の前髪と、スミレ色の瞳があり、まるで一幅の絵のようでした。
マンリー(アルマンゾ)はローラの姿を見ても何も言わなかったけれど、馬車に乗ったローラのドレスのまわりに麻の膝掛けをたくし込んで、ほこりが付かないようにしてくれました。
馬たちは、週末ではない日の午後のドライブに興奮して駆け出し、しばらく黙っていたマンリーは、「すぐに結婚するわけにはいかないかな?」と言い出しました。
出版されなかったはずの最終巻
この巻『はじめの四年間』は、「大草原の小さな家」シリーズの9冊目で、このシリーズの最終巻に当たります。
しかし、今までこのサイトで紹介してきた講談社の青い鳥文庫の「大草原の小さな家」シリーズには、収録されていません。
『はじめの四年間』は、日本では岩波書店からのみ、出版されています。
このページの始めに触れましたが、この巻の原稿はローラの死後に発見されたものです。ローラ自身は生前に、この巻を発表する気持ちはなかったのです。
この巻の原稿は、前書きに当たる『はじめに』によると、『スプリングフィールド雑貨社製の、一冊五セントで、表紙がオレンジ色の学校用ノート三冊に鉛筆で』書かれていたもので、それが娘ローズに遺されました。
しかし、その遺稿は、ローズの存命中にはやはり発表されず、ローズの友人であり、養子でもあった弁護士のロジャー・リー・マクブライドにローズの形見として遺されて、ローズの死後、マクブライドの手によって世に出されたということです。
この、出版されなかったはずの最終巻は、時系列的には、1943年(昭和18年)に発表された前作の『この輝かしい日々』の続巻に当たっています。
書かれた時期は作家生活の初期の頃
ロジャー・リー・マクブライドは、原稿が書かれたのは1940年代の後半で、アルマンゾが亡くなった後に、ローラがこれを推敲して出版する意欲をなくしたのだろうと、『はじめに』で述べています。
しかし、この巻の『訳者あとがき』によるとそうではなくて、この原稿が書かれたのは、1930年代のローラの作家生活の初期の頃であるということが、『ローラからのおくりもの』(岩波書店)や『ローラの思い出アルバム』(岩波書店)の編者であるウィリアム・アンダーソンによって、突き止められたと書かれています。
ファンならきっと感じる違和感
ロジャー・リー・マクブライドは、この『はじめの四年間』が、時系列的に前作の『この輝かしい日々』の続きになっているので、単純に、『この輝かしい日々』の次に書かれたものと思ったのかもしれません。
でも、前作までをていねいに読み進んできた読者の眼には、『はじめの四年間』の冒頭部分だけを読んでも、「今までの巻とはちょっと違う」と感じられると思います。
前作までは、「序章」などはまったく設けられていないし、夫アルマンゾはそのまま「アルマンゾ」とされていて、『はじめの四年間』での「マンリー」という呼び名には違和感を覚えます。
本編に入ってからも、始めに年代を明記する書き方が、前作までのさりげなくエピソードの中で年代を語る方法とは違うし、なによりも、前作では八月の結婚式の日で終わっているのだから、続けて書かれたものならば、今までの例からいって、その後から物語が始まるはずです。
(8巻目までの巻と巻の間は、短いものは数日で、他は2〜3ヶ月や数ヶ月空いていることが多く、一番長く空いたのは、3巻目の『プラム川の土手で』と、4巻目の『シルバー湖のほとりで』の間で、約2年半ほどです。)
ところが、この『はじめの四年間』の序章は、結婚前の6月の夜から書かれています。この序章は、ローラの娘ローズの名前の由来を示すために入れたものかも知れませんが、ローラは前作までは次の巻に入る時には、時系列が重なる書き方は一度もしていません。
ですから、「なんだか違うなあ・・・」という違和感を、読者は持つと思います。
76才で出版社からの要請を断る
『ローラからのおくりもの』(岩波書店)によれば、ローラは76歳の時に、老齢の夫アルマンゾに尽くしたいとの理由で、出版社からの続編の要請を断る決心をしたということです。
(この、ローラが76才の時というのは、前作の『この輝かしい日々』を出版した年です。)
その時アルマンゾは86才なので、無理からぬことだし、ローラ自身がすでに、現在の日本で言う後期高齢者です。
やはりこの『はじめの四年間』は、本来ならば出版されない運命だったし、死後発見されたこの原稿を出版したことについても、館長としてはいろいろと複雑な気持ちになります。
娘のローズが存命中にこの作品を発表しなかったということは、本人の意向に反した出版ということにもなるからだろうかと考えたりしました。
また、もし私がローラの立場なら、出版されることになるのだったら、もっと推敲を重ねたかったと思ったことでしょう。
そして、アルマンゾの世話に専念したいという気持ちに偽りはなかったにしろ、出版したくない理由は、他にもあったのではないかとも思えます。
光が少なくて影の濃い新婚生活
それは、この巻のストーリーが、「新婚生活」という言葉から多少とも連想されるような甘さは少なく、それどころか、希望が打ち砕かれる日々が続いているからです。
大草原の生活の厳しさは、このシリーズを読み続けてきた読者ならば、ある程度想像できることでしょうが、前巻までは、どんなに大変なことがあっても、力強い「父さん」と頼りになる「母さん」に守られていた安心感があります。
でもこの巻では、「父さん」と「母さん」は背景にほんの少し登場するだけで、若い二人だけで天災や病気や、多額の借金や火事などに立ち向かってゆかなくてはなりません。
館長は、若い二人が乗り越えてゆかなければならなかったこの四年間の大変な出来事には、一読して驚いたものです。
前作の『この輝かしい日々』までを書き綴ったローラの文章力を持ってすれば、この巻をもっと薫り高く、なめらかな文章のものに紡ぎ直すことができたはずです。
それをせずに、あえて眠らせたままにしておこうと思っていたローラの気持ちの一端が、この巻の内容から推測できるように思います。
3巻目の『プラム川の土手で』と、4巻目の『シルバー湖のほとりで』の間が2年半ほども空いていると、前述しましたが、この空白の期間は、インガルス家にとってとても厳しい試練が続いた時期でした。
ですから、その苦しさや悲しさは、すでに老齢になっていたローラでも、綴ることがやはり辛かったのではないかという推測は、『シルバー湖のほとりで』の説明ページに書きました。
それと同じで、この新婚生活の四年間をまた児童文学として綴り直すことが、ローラにとって辛かったのではないだろうか、というのが館長の推測です。
訳者も前巻の後書きで同じような感想を
そう感じるのは館長だけではないようです。
前作の『この輝かしい日々』の後書き『解説 ローラ その後』は、訳者のこだまともこさんと、渡辺奈津子さんの連名で書かれたものです。
その中に『なぜローラがこの「オレンジ色の表紙の学校用ノート」にえんぴつで書かれた原稿に手を加えて出版する気になれなかったということがわかるような気がします。』という一文があります。
また、『最初の四年間は、このように黄金色の光ではなく、暗い影にすっぽりとおおわれたような日々でした。』ともあります。
本当に、前作の『この輝かしい日々』では若い二人らしく、夢いっぱいで幸せな結婚式の日の記述で終わっていました。
それなのに、その後の新婚生活がとても苦しいものだったので、最初にこの『はじめの四年間』を読んだときには、当時のローラの胸中はいかばかりか、と思ったものでした。
児童文学というよりは、「記録」として
その『暗い影にすっぽりとおおわれたような』大変さについては、この『はじめの四年間』を読んでいただきたいと思います。
但しこの巻については、前巻までの児童文学としての「大草原の小さな家」シリーズの最終巻というよりは、作者ローラの結婚後の四年間の「記録」と考える方が良いのではないかと思います。
この『はじめの四年間』は、書かれた時期がまだ作家として駆け出しの頃であり、すでに作者には出版の意向がなかったので、古い原稿には推敲の手も全く入っていないと思われます。
ですから、前作の『この輝かしい日々』まで読んで、そのまま児童文学としての完成度を求めて読むと、肩透かしを食ったような気分になるのではないかと、危惧しています。
確かに、次々に起こる出来事はドラマチックなのですが、児童文学というよりは、事実を淡々と述べている「記録」としての側面が強く、前作までのローラの気持ちが手に取るように伝わってくるなめらかな文章とは明らかに異なっています。
ですから、児童文学としての最終巻は『この輝かしい日々』だと館長は思っているし、この『はじめの四年間』はローラの新婚生活の「記録」と思っています。
新旧の訳について
このシリーズ5冊目の『長い冬』と同じように、この巻も、以前は鈴木哲子さんの訳で出版されていました。
以下の画像は、旧版の『はじめの四年間』の表紙です。

旧訳の発行は、1975年(昭和50年)でしたが、2000年(平成12年)に、現在の谷口由美子さんの訳で新版が発行されました。
やはり『長い冬』と同じように、新版の方が使われている言葉などが判りやすく、特にこの巻は前述したように、前作までとは異なる文体で記述されているので、旧版で読むと、その「記録」風の文体が余計強調されているように感じます。
たとえば、『長い冬』の説明ページでも触れましたが、旧版では『母ちゃん』とか『父ちゃん』が使われています。
この『はじめの四年間』の旧版の『母ちゃんの赤白の格子縞のテーブルかけ』は、新版では『かあさんのきれいな赤白チェックのテーブルクロス』となっていて、やはりこちらの方が格段に読みやすいと思います。
新版の訳者の谷口由美子さんや、さし絵のガース・ウィリアムズについては、『長い冬』の説明ページでも述べています。
テレビドラマ化されたエピソードは
このサイトでたびたび取り上げている、アメリカNBCテレビ制作の「大草原の小さな家」シリーズには、この巻のエピソードに該当するものがあります。
たとえば、そのものずばりの『ローラの結婚』や、アルマンゾの発病などを描いた『暗やみにあかりを』など。
でも、ローラの結婚の時期のドラマは、実際のインガルス家には全くいなかった養子が登場したり、生涯独身だった姉のメアリーがドラマでは結婚していたりと、原作とはかなり異なる設定です。
夫アルマンゾの病気や、見舞われた災難についても、原作の『はじめの四年間』には全く登場しない、アルマンゾの姉イライザ・ジェーンがドラマを展開させる重要なキャラクターとなって『暗やみにあかりを』が制作されていて、原作とは別物の感を強くします。
また、舞台となっている町からして、原作のドゥ・スメットではなくてウォルナットグローブになっています。ここからして原作のファンには、違和感があるかも知れません。
ただ、原作から異なる設定や展開が多いとしても、面白くて感動的なものが多いドラマです。
(原作に忠実に映像化したと思われるドラマは、シリーズの一番最初に制作されて、2009年11月にDVDが発売された「旅立ち」のみと思います。
ローラとアルマンゾの結婚の頃のドラマは、DVDではシーズン7〜8のようです。)
『はじめの四年間』関連のオンライン書店のページ
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☆「大草原の小さな家」シリーズの本の一覧は、こちらのページへ。
☆「大草原の小さな家」シリーズの関連本や、アメリカ開拓時代の歴史・インディアンの文化などについての本は、こちらのページへ。
☆アメリカNBCテレビ制作の「大草原の小さな家」シリーズのドラマのDVDは、こちらのページへ。
『はじめの四年間』関連のホームページ
『はじめの四年間』の出版社
岩波書店児童書編集部
「大草原の小さな家」シリーズの原作についてのサイト
大草原の小さな家のページ
「大草原の小さな家」シリーズのTVドラマについてのサイト
ローラの釣り
(ドラマのネタバレあり)
このページの情報は、講談社の目録、あとがきの「解説」、『ローラからのおくりもの』(岩波書店)、『ローラの思い出アルバム』(岩波書店)、『ローラ・インガルス・ワイルダー かがやく大草原の日々』(佑学社)、『西部開拓史』(岩波書店)などによります。